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ピアニスト後藤・イシュトヴァン・宏一「21世紀型ピアノレッスン」

ピアノ演奏の前段階

ピアノ演奏と言っても音楽愛好家から、上級者まで存在します。今回お話しすることは、主に上級者参考になることを話していきたいと思います。というよりも当たり前の話をします。

21世紀になり、かなり科学的に心=脳という分野が分かって来ました。今までは経験談や偉大な音楽家の意見に頼ってきましたが、なるべく科学的にもアプローチをして行きたいと考えています。

五感(聴覚・視覚・触覚・嗅覚・味覚)+言語を入力として、心=脳にインプットして、出力(表現、行動、演奏)されるのが人間の仕組みです。
ピアノ演奏の前段階
現在ではここまでのことが証明されています。上記の流れで要する時間は0.2秒から0.5秒で処理されます。一瞬です。それ以上の時間を大脳新皮質で行うことは当然ありますが、人間の脳は過去の多くの失敗した情動・感情の記憶から検索してきますので、この流れを変革することで、演奏が変わってくることは確かなことです。この脳を使った飛躍的ピアノ演奏法・暗譜法はここでは紙面も限られていますし、私の指導法の真髄なので、別の機会に情報が欲しい方だけにお話し致します。


ピアノの話に戻しましょう。

上級者向けの話になってしまいますが、ピアノにとってのタッチは重要だと思います。
しかし、ハンガリーのピアニスト、私の師匠、ジュラ・キシュの口癖は、脳でひらめいたものを一瞬で、指先に反映させることが大切である、という言葉です。この時、タッチは一瞬でひらめいたイメージに対して自動的になっていなければならない、ということです。

一瞬でタッチをイメージ通りに変化させるためには、練習によって、色々色彩のある音を出せるようにしておくことが必要になって来ます。また、作曲家が楽譜上、出して欲しいと思われる音をイメージする能力も必要になってきます。

イメージする能力に必要なことは、世界史、音楽史、楽器の歴史、作曲家の進化などの理解なしでは、イメージすることはとても難しいことになってしまいます。

現代のピアニストの役割の一つは、楽譜からの再現性、次に個人的なインスピレーション、そして個人的な個性ある音色であると思います。

どんな大作曲でも日常がありました。そこにはその時代のバックグランドがあった訳で、その中で作曲活動をしました。よって世界史を知らずして、作曲家の理解は難しいものとなってしまいます。作曲家は過去の作品からインスピレーションをうけたり、文学から影響されたりして作曲をしました。ここで音楽史が必要になってきます。またキムバロン(ギリシア時代)からチェンバロ(イタリア語)・クラヴィーア(ドイツ語)・クラヴサン(フランス語)の時代が数百年かかり1700年にクリストフォリがピアノを発明し、そこから試行錯誤して1800年代に現在のピアノの原型が出来ます。

そしてスタインウェイ一家が1850年にアメリカに渡り、1853年にニューヨークでピアノを作り始めて、30年後、ドイツのハンブルクでピアノ工場を作りました。1891年、ニューヨークにカーネギーホールが出来、収容人数が2800名。こんな大きなホールでも響かせるため、スタインウェイ&サンズが作成したのがフルコンサートグランドピアノでした。

世界の歴史によって音楽家が翻弄され、音楽家はそれぞれの時代に合った、もしくは逆らった曲を作曲しました。その際、時代に応じて変化していった楽器を使っていきました。

普通に考えて、世界史、音楽史、楽器の歴史、作曲家の進化を知らず、楽譜からの再現性はし難いし、どんなに良いインスピレーションをうけても、上記のことを知らずして演奏をするのは、自己満足になってしまい、現代の演奏法、タッチ、腕の使い方なども限定されてしまいます。

かなりの方々が理解されていないことですが、感性と感情には大きな違いがあります。
感情でピアノを弾く、と考えられていますが、これでは感情の不安定によって演奏にかなりのムラが出来てしまいます。

感性とは、多大な知識、経験の先にあるものです。ピアノはこの感性によって弾くべきでありますし、指導者たるものは、世界史、音楽史、楽器の歴史、作曲家の進化を最低知っておくべきであり、それプラス、文学、絵画の知識の造詣に深く敏感であるべきだと思います。

そうでなければ、楽譜の音符の正しい、間違っている、楽語の意味、強弱の違い、単なる楽曲分析、だけを教えるだけの指導者になってしまいます。感性のためのレッスンにおいて初心者の方々には分かりやすくシンプルに世界史、音楽史、楽器の歴史、作曲家の進化を最低知っておくべきであり、それプラス、文学、絵画の知識を伝えながらレッスンをするべきですし、上級者には、それらの方向に導きながらピアノレッスンをする必要があります。

ピアニストと呼ばれる人々は世界史、音楽史、楽器の歴史、作曲家の進化、文学、絵画の知識、これら全てが繋がっていることを知っています。ピアノ演奏のヒントは脳=感情、知識を利用して、楽譜に書いてあることは全て読み込み、感情ではなく感性で演奏出来るようになることが重要になって来ると思います。

タッチが先では無く、作品に応じてのタッチが必要になる、と考えるべきだと思います。

あなたが作曲家ならば話は別ですが、作曲家が書いたものを演奏するには、その書かれた作品のためのタッチ、メカニック、テクニックを選択して、それら全てを磨くべきだと思います。

古楽器を使用しないで現代のピアノで演奏するならば、上記したことはとても重要なことです。

楽譜を見てその演奏が良ければいい、という意見があるのも知っています。

ですが私がハンガリー国立リスト音楽院で学び、また留学中に学び直したのが、世界史、音楽史、楽器の歴史、作曲家の進化、文学、絵画の知識でした。それプラス日本史も学び直しました。1989年のハンガリーは社会主義だったので娯楽というものがほとんどありませんでした。練習後の夜は時間が沢山ありました。もともと日本史は大好きでしたが、世界史を調べている時、その頃の日本は?という感じでした。作曲作品に影響を与えた小説や詩、日本が恋しくて日本文学も膨大な量を読み倒しました。その経験は現在では宝物になっていることは言うまでもありません。